3回目になるGBJ学生オピニオンチャレンジを例年通り、高校生の部・大学生の部に分けて開催しました。
2022年のテーマは「未来 VISION~あなたの2032年を描く~「環境×くらし×未来」」、建築や都市に限らず、幅広い分野からの応募を期待して間口の広いテーマとしました。今回の特徴としては、例年論文のみとしていた形式を要約+自由形式として映像や音楽他での応募も可とした点と、従来は参考としていたインタビューを評価点に加えた点です。応募資料では表現しきれていなかった学生達の環境課題への認識や未来に向けての考えを、インタビューでは聞くことが出来ました。
最終的な評価は高校生の部、奨励賞2件、大学生の部、奨励賞3件となりました。
【高校生の部】
奨励賞
|
プリントに依存しすぎている教育現場を電子化で解消! |
佼成学園高等学校 2年 |
奨励賞 |
自転車を漕いでカーボンニュートラルの実現に近づきたい‼ |
お茶の水女子大学附属高等学校 3年 久保 奈々 さん |
【大学生の部】
奨励賞 |
衣類廃棄を削減するためのプラトフォーム– |
法政大学 3年 |
奨励賞 |
アプリで管理する一時滞在施設としての空き家活用 ~空き家×災害×アプリ~ |
法政大学 佐久間 由奈 さん 三部 佳奈 さん 大谷 実紅乃 さん(以上3年) 佐々木 勇真 さん(2年) |
奨励賞 |
ゴミをくっつけて海をきれいに ~プラスチックとグレーチングの磁石化~ |
法政大学 山田 季帆里 さん 小掠 千優 さん 工藤 麻鈴 さん(以上3年) 小槻 瑶子 さん(2年) |
【高校生の部】
プリントに依存しすぎている教育現場を電子化で解消!
佼成学園高等学校
土田 拓己
【要約】
学校では多くのプリントが使われているがこれらは本当に必要なのだろうか。学校から配布されるほとんどのプリントは学習が終わり次第捨ててしまうため、紙資源を無駄にしてしまっていると感じている。また、毎日大量のプリントが配布されるため、部屋がプリントで埋もれてしまうほど紙の管理に手間がかかる。
そこで、私は普段の学校生活でプリントを最小限にしていきたいと考えiPadを使ってプリントを電子化し、自宅で使用する紙資源を減らすことができたが、依然として紙の消費は多い。そこで、私が今取り組んでいるようなプリントの電子化を全国の学校で実施できたら、紙資源のカット、プリントの管理の手間や教員の印刷時間削減、紙資源やインクのコスト削減、環境保護などが期待できると考え、プリントの電子化を提案したい。しかし、プリントにはデジタルより記憶しやすいなどのメリットがある。そのため、プリントの利点とデジタルの利点を共存させることが重要であり、“Less paper rather than No paper”(紙をなくすより、紙を減らす)を目指すべきだと考える。
1. 問題意識
学校では未だに多くのプリントが使われているがこれらは本当に必要なのだろうか。私が通っている学校ではiPadが配布されており、iPadを通して配布されるプリントもあるが、紙で配布されるプリントや自宅で印刷する紙など、自分自身は毎日平均6〜8枚ほどのプリントを消費している。しかし、ほとんどのプリントは学習が終わり次第捨ててしまうため、紙資源を無駄にしてしまっていると感じている。また、数日間プリントを放置していると、部屋がプリントで埋もれてしまいプリントの管理が手間である。
そこで私は普段の学校生活でプリントを最小限にしていきたいと考え、プリントを電子化するノートアプリを使用し始めた。そのノートアプリでは、電子化したプリント上に書き込めるだけでなく、普段の授業のノートとしても活用することができるため、すべてiPad上でノートを取るようになった。すると、学校から電子で配布されていたプリントなどを印刷する必要もなくなり、自宅でのプリントや紙のノートの使用量が大幅に減った。
もし私が今取り組んでいるような電子化の取り組みを全国の学校規模で展開できたら、大きな変化を起こせるのではないかと考えた。2019年度から全国の学校で一人に一台のタブレット端末やパソコンを配布するGIGAスクール構想が始まっている。そのため、全国の学校で端末を使用したプリントの電子化は可能であり、また紙資源の大幅削減ができるのではないかと考えている。そして環境にも優しい学校づくり、さらにはCO2削減、森林の保護につながると考える。
2. 理想の世界
私の理想の世界は「教育現場でプリントを電子化しすべての人がハッピーになる」ことだ。
学校で紙を減らし電子化することによって、紙を生産、廃棄するときに排出されるCO2を削減でき、紙を節約することによって森林の保護につながるだろう。また生徒は、保存したプリントにいつでもどこでもアクセスすることができ紙の管理の煩わしさから解放され、持ち運びの負担軽減や学習効率の面でもメリットがある。学校側は紙やインクにかかっているお金を大幅に節約することができ、教員も印刷する手間を省くことによって業務作業時間を大幅にカットすることができる。この理想の世界を実現することによって全ての人がハッピーになることができるだろう。
理想の世界を実現したら以下の効果が実現することができると考える。
3. 期待される効果
1) 環境問題の改善
リサイクル紙が増えたとは言え、紙の主原料は木材であり、生産には原料となる木を伐採する必要がある。そのため、紙の大量生産によって二酸化炭素を酸素に変換することができる森林が減少することや、紙の生産や廃棄の過程で大量の二酸化炭素の排出によって地球温暖化の促進が懸念されている。
日本製紙連合会・LCA小委員会の資料(※1)によるとA4のコピー用紙1枚の生産過程で約7gのCO2が発生していると考えられている。また、私の学校の事務室に調べてもらったところ1年間で約260万枚ものプリントを使用していた。その結果を私の学校で当てはめると7g×260万枚で1年間に約18.2トンものCO2を排出していることとなる。これは、36〜40年生のスギ人工林約1300本、東京ドーム約半分(約2.5ヘクタール)の大きさが1年間に二酸化炭素を吸収することができる量(※2)に相当する。
文部科学省の学校基本調査報告(※3)によると日本全国には小学校が約19,000校、中学校が約10,000校、高等学校が約5,000校ある。学校の規模感に違いがあることは間違いないが、おそらくほとんどの学校でコピー用紙によるプリントの配布が行われていると推察される。上記の学校数を足せば、約3万4000校となり、電子化により各学校がプリントを作成する必要がなくなり、プリントを1枚減らすことになっただけで、3万4000枚ものプリントを減らす事ができる。また、小中高の総生徒数は約1400万人で、各学校が生徒一人に渡すプリントの枚数をたった10枚減らすだけで、1億4000万枚以上のコピー用紙を減らす事ができる。A4用紙だと仮定すると、約10億グラム、すなわち、約1,000トンもの二酸化炭素の排出を抑制する事ができる。これは、スギ人工林約71,500本、東京ドーム約29個分(約137.5ヘクタール)の大きさが1年間に二酸化炭素を吸収することができる量(※2)に相当する。
このように、GIGAスクール構想で整った状況を活用し、全国の学校がプリントの電子化を意識する事で環境負荷を大きく減らす事ができる。日本全体でこのような取り組みができれば海外に向けたモデルケースを提案することにもなると考えられる。
2) 生徒の学習効率、負担の改善
1つ目に、プリントなどを電子化することによって学習記録やプリントの管理がしやすくなる。紙で学習の記録を行っていた場合、自分で見直すのはとても手間がかかる。しかし、デジタル端末の場合、保存したデータを元に学習進捗や理解状況をAIが分析をしてくれたり、データ共有によって先生が逐一生徒の状況を知ることができたりすることによって生徒一人一人の学力分析も可能になり、適切な学習指導を生徒に提供することができる。
2つ目に、生徒のプリントを持ち運びする負担を軽減することができる。実際、毎日大量の参考書やプリントなどを持ち歩くことによって、肩こりや腰痛、猫背になってしまうなど健康面でさまざまな悪影響が出てしまっている事例(※4)が多い。そこで、毎日持ち運びしている大量のプリントを電子化しデジタル端末上に保存し、デジタル端末1台持つだけでいつでもどこでも保存したプリントを見ることができるため生徒の学習への利便性、荷物の減量することによる健康面ともにメリットがある。
最後に、ICT教育によって勉強に対する生徒のモチベーションを向上させることが可能であり、効率的な勉強を行うことができると考えている。ITツールによって教師陣は画像や動画などを活用した分かりやすい授業を行うことができ、生徒の興味関心を高めることができる。実際に、アメリカ国立訓練研究所のラーニングピラミッド(※5)でもただ講義を聞き覚えるのが平均学習定着率5%に対し、写真や動画、音声を学習に使用するだけで20%まで向上するという結果が出ている。そのため、ITツールを活用することで生徒が効率よく勉強することが可能になる。
(Learning Pyramid)
3) 教師や学校の効率化
学校では毎日大量に紙を印刷している。コピー用紙代やインク代に加えコピー機の点検など、総額としては膨大なお金がプリントに費やされていると推察される。そこで、電子化が進めば、大幅なコスト削減を見込む事が可能と考えられる。
消費されているのはお金だけではない。職員室で先生達が大変そうに印刷をしているのをよく目にする。担任の先生は、時期によれば最大1時間以上印刷するのに並ぶことがあるという。授業のプリントや各種連絡のプリントを印刷する手間を省く事ができたら、先生達の限られた時間を最大限活用することが可能になると思う。また、プリントを紛失してしまった生徒に対応している先生達の手間も電子化してしまえば少なくなるだろう。
このように学校では、コピー用紙およびインクの節約により大幅な経費削減ができるだけではなく、もっとも貴重な先生や職員の方々の時間を節約することができる。
4. 懸念される課題
1) デジタル上での書きにくさ
デジタル上での手書きはとてもやりにくい。私も実際iPadでノートアプリを使用する前までは電子上で手書きをするのはとても書きにくいと感じプリントを使用していた。しかし、ノートアプリ「Good note5」とApple Pencilを勉強用に購入してみたところ紙と遜色ない書き心地を実現しており、紙媒体のプリントを使用することはほとんどなくなった。そのため、今後は全生徒にデジタル端末のノートアプリとタッチペンの導入が必要であると考える。
2) 教員のスキル
現状、全国の学校ではデジタル端末が導入されているのにも関わらず多くのプリントを使用している状況がある。その背景には、生徒側のノートアプリの導入やタッチペンの導入などの電子化が進んでいないことや、教員がITスキルを持っていないということなどが考えられる。そのため、学校や国は全ての教員にITスキルを学ぶ機会を作る必要があると考えている。
5. おわりに
このレポートを書く前から常に学校から配られるプリントに不満を持っていたが、あまり真剣に対策を考えることがなく、学校のプリントに関して調査することはしてこなかった。そのため、そこまで問題の深刻さを感じていなかったが多くの文献を読み、また先生や生徒にインタビューをする中で環境面や生活面の改善のためにはこの問題の解消は急を要しているのだと感じた。
このレポートの中でプリントを使用するデメリットを多くあげ、電子化にすべきだと述べてきた。しかし、全て電子化する必要はないと考えている。プリントにはプリントで様々なメリットがある。例えば、東京大学尾鍋史彦教授の研究論文(6)によると、紙で書いた方が人間の五感に高い親和性があり脳内の長期記憶貯蔵庫に格納されやすいと明らかになっている。このように、デジタルでは実現することができないメリットが紙には存在する。そこで、紙のメリットとデジタルのメリットを共存することが重要であり、今後の学校は“Less paper rather than No paper”(紙をなくすより、紙を減らす)を目指すべきだと考える。
今回提言する「プリントに依存しすぎている教育現場を電子化で解消!」を実現することでCO2排出量の削減、生徒の学習効率、負担の改善、学校のコストや教員の業務作業の削減を実現できると考える。
6. 参考文献
ー引用文献ー
(1)日本製紙連合会・LCA 小委員会 . 紙・板紙のライフサイクルにおける CO2 排出量 . 2011-3-18 .
https://www.jpa.gr.jp/file/release/20110318021915-1.pdf
(参照 2022-8-30)
(2)林野省 森林整備部利用課 . “森林はどのぐらいの量の二酸化炭素を吸収しているの?” . 2014-11-13 .
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/20141113_topics2_2.html
(参照 2022-8-30)
(3)文部科学省 . “令和4年度学校基本調査(速報値)について公表します” . 2022-8-24 .
https://www.mext.go.jp/content/20220824-mxt_chousa01-000024177_001.pdf
(参照 2022-8-30)
(4)近藤みほ . “小中学生の荷物の重量化に伴う健康影響と対策ついて〜平成29年第3回定例会 一般質問
①〜” . 2017-10-6 . https://mihokondoh.net/2017/10/post-3692/
(参照 2022-9-13)
(5)Education corner . “The Learning Pyramid” .https://www.educationcorner.com/the-learning-pyramid.html (参照 2022-9-13)
(6)尾鍋史彦 . ‘‘1. 紙の文化ー文化の創生と継承において紙が果たしてきた役割と電子化時代の新たな展開ー” . 2011 . ja (jst.go.jp)
(参照 2022-)
ー参考文献ー
・文部科学省 . “GIGAスクール構想の実現について” . 2022.9.4 .
https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm
(参考 2022-8-27)
・育児ログ . “学校配布物は紙がいい?データがいい?ペーパーレス化のメリット・デメリットについて” . 2021-11-21 .
https://ikuji-log.com/paper-or-data/
(参考 2022-9-13)
・全家研 . “紙学習とデジタル学習、メリット・デメリットは?” .
https://www.popy.jp/topics/01.html
(参考 2022-9-13)
・UMU . “教育のデジタル化とは?導入する5つのメリットと今後の課題” . https://umujapan.co.jp/column/education-digitalization_210929/
(参考 2022-9-13)
・ITトレンド . “学校でペーパーレス化を推進するメリットは?実現した事例も紹介!” . 2021-3-18
https://it-trend.jp/paperless-meeting/article/273-0017
(参考 2022-9-13)
・KYOCERA Document Solutions . “Are paperless classrooms the future of education?” . 2018-1-30
https://blog.kyoceradocumentsolutions.com.au/paperless-classroom-pros-and-cons
(参考 2022-9-15)
自転車を漕いでカーボンニュートラルの実現に近づきたい‼
お茶の水女子大学附属高等学校
久保 奈々
【要約】
近年、供給源確保が困難となり日本国内の電力供給力の逼迫が問題となっている。そこで私は、自転車走行による自転車発電の普及拡大を一つの解決策として提案する。
自転車にバッテリーを設置することでエネルギーを貯めるこの発電方法は、既に米国内で開発が進んでいる。天候や地形などの環境要因に左右されず扱いやすいものの、普及は限られている。そのため、新型コロナウイルスの影響で定着した、20万人以上の配達員を擁する「フードデリバリーサービス」の利用と掛け合わせることで普及を図る。というのも、私自身も配達員の1人であり、多い日には100km以上走行し、自転車を漕ぐエネルギーを何とか活用したかったからだ。
具体的なプロセスは以下の通りだ。配達員用貸し出し自転車にバッテリーを取り付け、走行時にエネルギーが貯まり次第コンビニ等の身近な施設に設置した「チャージスポット」に置き、USB変換したバッテリーとして貸し出すことで普及を図る。
自転車発電は人力でありながらも、国内電力消費の3割を占める家庭での電力消費の多くを代用出来る。このシェアリングサービスを通し、電力需給問題解決だけでなく無理のないカーボンニュートラルの実現も期待される。
GBJオピニオン・チャレンジ 久保奈々
Kubonana_afterinterview
【大学生の部】
衣類廃棄を削減するためのプラトフォーム
法政大学 経営学部・経営戦略学科
北尾 結菜 長谷川 茅夏 山ノ井 伶果
【要約】
現代、ファッション業界はファストファッションが流行したことにより低価格で衣類を大量生産している。その結果、消費者の中で低価格の衣類を簡単に手に入れ、簡単に手放すというサイクルが生まれ、その衣類の廃棄量は膨大である。この衣類廃棄のほとんどが可燃ごみ・不燃ごみとして消費者から捨てられ、最終的には焼却、そして埋め立てられている。衣類廃棄・焼却により二酸化炭素排出量を増加させ、地球温暖化を促進している問題を解決すべく、私たちは衣類廃棄量を削減するため、「古着回収ボックス」と「無料古着マーケット」の開催を提案する。ファッションへの関心が高い大学生を対象にし、大学という大きなプラットフォームを活用することで、不要になった服を他の学生が着用するためサーキュラーエコノミーの実現が可能であると考える。また、「可燃ごみ・不燃ゴミ」として廃棄される衣服を削減し、実在する環境問題、社会問題に向き合う時間を作ることができ、持続可能な社会を大学と学生とで作っていくことを目指す。
1. はじめに
生活をしていく上で重要である衣食住の「衣類」を生産している重要な役割のファッション業界は、経済成長と人口増加によって世の中にものがあふれるようになった結果、ファッション業界は企業戦略として低価格で大量生産を行い始めた。一方で、消費者も低価格で服が手に入るため1回着て捨ててしまうことも当たり前になっている。このようなサイクルによって引き起こされる衣類廃棄量は膨大だ。衣類廃棄の割合は、事業所から手放された衣類よりも家庭から手放された衣類の方が圧倒的に多い。また、家庭から手放された衣類はリユースやリサイクルの割合は低く、ほとんどが可燃ごみ・不燃ごみとして廃棄されている。「可燃ごみ・不燃ごみ」で廃棄してしまう理由は、処理に対する時間がかからないためであることが分かった。そこで私たちは、洋服の大量廃棄に焦点を当て、衣類廃棄量を削減するために「古着回収ボックス」と「無料古着マーケット」の開催を提案する。
2. 現状
現在、アパレル業界は国連貿易開発会議(UNCTAD)によって世界2位の汚染産業として指摘されており、深刻な社会問題を引き起こしているのが現状である。その理由の一つに大量廃棄が関係している。洋服が廃棄される出所は大きく分けて、アパレル産業の事業所と私たち消費者からの2つである。
環境省の2020年データによると、日本の衣類の国内新規供給量は81.9万トンであったのに対して、その6割に相当する51万トンが事業所及び家庭から廃棄されている。アパレル産業の事業所からは1.4万トンの洋服が廃棄されている一方で、消費者から廃棄される量は49.6万トンと、その差は歴然である。(図1)
また、消費者が服を手放す手段は「譲渡・寄付」3%、「資源回収」7%、「古着として販売」、「地域・店頭での回収」11%、そして「可燃ごみ・不燃ゴミとして廃棄」68%と半分以上がゴミとして洋服が手放されている。さらに、ゴミに出された洋服は5%が再資源化されるものの、焼却・埋め立てされる割合は95%と、二酸化炭素排出量を増加させ地球温暖化にも影響を与えている。このように、着なくなった洋服を「可燃ゴミ、不燃ゴミ」として廃棄してしまう私たち消費者の手によって、環境に負荷を与えている割合が大きいのが現状である。(図2)
(図1)衣類の国内新規供給量と廃棄量
(図2)消費者が服を手放す手段
3. 解決策
そこで、可燃ごみ・不燃ごみで廃棄される洋服の割合を減らすために消費者の衣類廃棄の新しい選択肢を提案する。それが、古着回収と無料古着マーケットの開催である。
私たちは大学生をターゲットに洋服の廃棄を削減する具体案を考えた。大学生をターゲットにした理由は、ファッションへの関心が高い割合が多いとわかったからである。鳴門教育大学のアンケート調査によると大学生が服装やファッションに興味・関心のある人は全体で、「とてもある」と「どちらかといえばある」の回答を合わせると74.6%となり、全体の7割以上が服装やファッションに興味・関心をもっていることがわかった。(図3)また、制服など指定された服を着ていた高校時代とは違って私服を着る機会が多い大学生は、洋服を買い替える頻度が高く、そしてメルカリのようなフリマアプリが広く利用されるようになったことで古着に対するマイナスイメージはあまり見うけられない。これらの理由から、大学生をターゲットとして考えた。
(図3)大学生のファッションへの興味・関心
まず初めに、古着回収ボックスについて説明する。大学の入り口など人が多く行き交う一番目立つ場所に古着回収ボックスを設置する。(図4)回収する洋服の許容範囲はまだまだ着用可能の洋服、または、多少の穴が空いたもの、汚れ、染みありのものも訳ありアイテムとしてリユース用に回収する。ただしカビのあるもの、下着・着用した靴下などは回収不可能である。回収ボックスは透明のボックスにして、どれだけ溜まっているかを可視化できるようにする。この透明なボックスを利用して、衣類回収の役割だけでなく、大学の投票ボックスとしても機能させることが可能だと考えた。
(図4)衣類回収兼投票ボックス
この投票ボックスの事例として、タバコのポイ捨てを削減するために考えられたイギリスの環境保全団体「ハバブ財団(Hubbub Foundation)」が考えたアイデアを紹介する。ハバブ財団はタバコのポイ捨て防止対策として、吸い殻を入れることでアンケートに参加できる投票式の吸い殻入れ「Ballot Bin」を街中に設置した。その結果、タバコのポイ捨てを46%も減少させ、約400万本もの吸い殻の回収に成功した。このように成功した要因は無意識のうちに興味を与えて行動を誘導するナッジ理論が影響していると考え、古着回収にもナッジ効果を利用することが有効的だと考えた。
そのため、衣類回収ボックスにもアンケートの質問を設定し、着なくなった洋服を投票券として二択のアンケートに参加してもらう。アンケート内容は大学と関連したものとし例えば、『学食を商品化するならどっち?』「A.メイド喫茶風萌え萌えオムライス 」「B.魔法陣ランチセット」といった大学生がつい投票したくなるようなアンケートを作成する。また、投票結果が多く集まった回答は本当に商品化するなど工夫を行う。このように、学生は着なくなった衣類を回収することが可能な上に、自分の意見を反映できるきっかけに繋がるメリットがあり、大学側も学生のリアルな意見を知ることができ、新しい取り組みへと繋がる。
さらに、衣類回収ボックスの特典として、ボックスに衣類を入れた人を対象におみくじが引ける機能をつける。(図5)おみくじの内容は、大吉や吉など一般的なおみくじと変わりはなく、大吉が出た場合のみ学食や大学の売店などで使える割引券である。この機能の仕組みは、デジタル版のおみくじになっていて洋服を入れた際センサーが反応して、おみくじが引ける仕組みとなっている。大吉がでた場合、QRコードと引き換え番号がモニターに映し出され、QRコードをスマホなどから読み取り、専用サイトにアクセスし引き換え番号を入力すると割引券がもらえる。このように、衣類回収ボックス兼、投票ボックスにすることによって、話題性が期待でき楽しみながら衣類回収することを目指す。また、学校全体と協力して行うことによって大学自体のサステナビリティ活動意識も高まると考えた。
(図5)おみくじの説明
次に無料古着マーケットについて説明する。回収するだけでなく、衣類回収ボックスで集まった古着は構内に展示し自由に持ち帰ることができるようにする。実際に、去年の法政大学の文化祭では学生スタッフの着なくなった古着を回収し、無料で古着を持ち帰ってもらう古着マーケットを開催した。実際に私もそこから二着もらって帰った。このように、無料古着マーケットは大学生に需要があることがわかる。開催時期は特に決まりはなく、洋服が集まり次第不定期で実施する。実施場所は、教室の一角を借りたり、人の目が多く集まる中庭などで開催したりすることによって気軽に立ち寄ってもらい活動を知ってもらう機会に繋げたいと考えた。長い間残ってしまった衣類は、大学付近の衣類回収を行っている企業に持って行くか大学でリユースする。
例えば、 洋服を手が拭きやすいサイズにカットしてハンカチに姿を変える。トイレにおくことによって、手を洗ったあとの衛生管理ができる。そのほかにも、色々な生地を組み合わせて埃カバーとして生まれ変わり、精密機械や掲示物置き用の机の上の埃が溜まることを防ぐ。これらのリユースの取り組みは学生の交流の場としてイベントを開催する。このイベントを運営するのは、大学のボランティア情報を発信している学生スタッフなど大学側が行う。また、学生スタッフの募集や衣類回収ボックス活動の認知の広げ方としては、学生や先生も利用する大学の情報ポータルサイトで、ページを開いた際に広告として出てくるなど、学校全体で盛り上げていく。
私たち消費者は環境問題に対しての関心はあるにもかかわらず、なにか行動に起こせている人は少なくない。また衣類の処理に関しては手間や労力、費用がかからないことを重要視しているため、学生は大学に授業を受けに来るついでに衣類を持ってきて、回収ボックスに入れるだけで環境問題に貢献可能である。大学生が大学へ不要になった服を持ってくることに対する魅力は、費用がゼロであること、無料で自分が欲しい服を持ち帰ることができること、服をボックスに入れるとおみくじを引くことができること、学食や売店の割引券がもらえることである。
このように、大学という大きなプラットフォームを活用すると、不要になった服を他の学生が着用してくれることでサーキュラーエコノミーの実現が可能である。また、「可燃ごみ・不燃ゴミ」として廃棄される衣服を削減し、実在する環境問題、社会問題に向き合う時間を作ることができ、持続可能な社会を大学と学生とで作っていくことができる。
4. 結論
いま社会では企業が大量生産によって低価格で消費者にモノを提供し、消費者はそれに伴い買い替える頻度が高まり不要になった衣類の大量廃棄が問題となっている。そこで私たちは”古着回収ボックス”と”無料古着マーケット”を設置・開催することで不要になった衣類をほかの学生に提供・循環させることで衣類の大量廃棄を撲滅させることができるプラットフォームの提供を提案する。この古着回収と無料フリーマーケットは短期的な目標ではなく、「大学に行くついでに」といった軽い気持ちで行ってもらえるよう、長期的な取り組みを目指している。楽しく衣類廃棄物の削減に貢献することで大学生のサステナビリティ活動意識の高まりが期待できる。
〈参考資料〉
1.タバコのポイ捨てが46%減少 世界で広がる「投票式吸い殻入れ」対策がユニーク | ELEMINIST(エレミニスト) (最終閲覧日:2022年7月20日)
2.環境省_サステナブルファッション (最終閲覧日:2022年7月27日)
3.衣料廃棄物について考える (最終閲覧日:2022年7月27日)
4.環境省 令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務 -「ファッションと環境」調査結果 (最終閲覧日:2022年7月20日)
5.鳴門教育大学研究紀要/大学生のファストファッションに対する意識調査 (最終閲覧日:2022年7月20日)
アプリで管理する一時滞在施設としての空き家活用 ~空き家×災害×アプリ~
法政大学経営学部
大谷実紅乃 佐久間由奈 佐々木勇真 三部佳奈
【要約】
私たちは、空き家を一時滞在施設として利用する「ぷらっとHOME」というアプリを提案する。都市部にある空き家は現在12万戸存在しており、誰にも管理されず放置されているという現状にある。これは、犯罪への利用や、火災事故に繋がる可能性がある。一方、私たちの生活には、地球温暖化による豪雨災害や、首都直下型地震のリスクなど、いつ災害が起こってもおかしくない状況だ。しかし、災害時に利用できる一時滞在施設は、予想される帰宅困難者の数に足りていない。そこで、空き家を新たな一時滞在施設として管理し、災害時に簡単に利用できるアプリケーションを考える。このアプリの特徴として、アプリに登録した個人の状況に合わせて適した避難場所を提案するサポートを行う。さらに、アプリ利用者からリアルタイムで情報を集め、災害状況について職員を派遣するよりも早く把握する、という特徴もある。また、このアプリを利用することによって、避難効率を上がること、避難者に安心感を与えるという2つのメリットがあると考えている。混雑による混乱や、自分に適した避難場所の確保は災害時の大きな課題であったが、この「ぷらっとHOME」によって解決できると私たちは考える。
1.はじめに
近年、いつ起こってもおかしくないと言われている首都直下型地震や地球温暖化による影響で頻発している豪雨災害など、私たちの生活は災害と隣り合わせだ。そんな災害が都心で起こった場合大きな問題となるのが帰宅困難者の発生である。首都直下地震対策専門調査会の報告によると、首都直下型地震が発生した場合の帰宅困難者は1都3県で約650万人、東京都だけで約390万人と予測されている。帰宅困難者を解決する対策として、私たちは空き家の活用を提案する。
災害時に帰宅困難者が空き家を自由に使用できるようにすることで、帰宅困難者にとっては非難場所の確保ができる、国にとっては公共交通機関などの混乱を防げるということで双方にメリットがある。この仕組みを利用してもらいやすくするために、私たちはアプリで空き家を管理するという方法を提案する。
2.現状
首都圏における災害時の帰宅困難者を防ぐための取り組みとしては、一時滞在施設の開放を行っている。一時滞在施設とは、帰宅が可能になるまで帰宅困難者を一時的に受け入れる施設である。しかし、予測される帰宅困難者の数に対して一時滞在施設が大幅に不足しているのが現状である。都は企業や学校に対して従業員・児童生徒の一時的な待機体制を整えるよう求めているが、それでも買い物客や行楽客など行き場をなくす人が約66万人いると想定されている。これに対し、現状で確保している施設が1155箇所約44万人分にとどまり、20万人以上の受け入れ先が不足している状態である。このように、災害時における帰宅困難者対策として、一時滞在施設が不足していることが問題といえる。
このような現状に対して、私達は一時滞在施設として空き家を活用する方法を提案する。総務省「平成30年住宅土地・統計調査」によると、都内の空き家件数は約81万戸、空き家率は10.6%である。そのうち、活用可能と想定される「腐朽・破損なし」の空き家数69万戸から賃貸用の住宅を除いた空き家が約12万戸であり、全体の約15%にあたる。つまり、都内では約12万戸の空き家が活用されずに放置されていることがわかる。これらのことを踏まえ、私達は災害時の一時滞在施設として空き家を活用する方法を考え、災害時に利用可能な空き家と帰宅困難者をつなぐプラットフォームの役割を担うアプリを提案する。
3.「ぷらっとHOME」
ここからは、アプリについて詳しくみていく。私たちが今回考えたのは「プラットHOME」というアプリだ。このアプリの大きな特徴として、「避難場所提案のサポート機能」、「利用者からのリアルタイム情報収集」の2点があげられる。以下に順を追って説明していく。
最初に「避難場所提案のサポート機能」についてである。この機能はアプリ内のGPSを使ったものであり、「どこに」「どれくらい」「どんな人がいるのか」を明らかにする状況把握と、この把握した情報と、登録した個人の情報を組み合わせたマッチングによって、ユーザーに最適な避難場所の提案をすることができる。ここで提案する情報は、空き家に加えて、公共の避難場所も含めることで、ユーザーにより最適な一時避難先を提示することができる。もう一つの特徴である「利用者からのリアルタイム情報収集」は、ユーザーとアプリ運営側が相互に協力することで機能する。またこの機能があることで、災害時に利用されている空き家の混雑具合がアプリの予想した通りなのか、空き家の災害による破損状況はどれほどかなどの現状を運営側がいち早く知ることができる。具体的な手段としては、アプリのユーザーに利用予定の空き家や、自身がいる場所の近くにある空き家についての情報を、写真や文章等で共有するという方法をとる。これにより、派遣員を向かわせて現状を調査する手間と時間を減らし、迅速で正確な情報提供を可能にする。
4.災害発生時のフロー
「ぷらっとHOME」のアプリケーションを利用する場合における、災害発生時からのフローを見ていきたい。ここでは、首都直下型地震が起きた時を想定する。また、総務省によると東日本大震災後は、大災害が発生してもスマートフォン等の機器が利用できるよう、体制を整えているということが分かった。そのためWI-FI環境が損なわれていないという前提の上で考えていきたいと思う。
①災害発生した後、ユーザーはアプリを立ち上げることによって、運営側へ位置情報が発信される。
②その位置情報を元に、付近のエリアの被災状態、エリア内人数を把握。
③空き家と周辺の公共の避難所を合わせて検索を行う。
④その場所から近く、登録情報とマッチした、避難場所をユーザーへ案内する。
⑤どの避難場所を利用するのか選択したユーザーはナビに従い移動する。
⑥空き家を避難場所として選択した場合、空き家に到着後、利用者はアプリ内のQRコードを鍵として使い部屋を利用する。
⑦QRコードが読み込まれることで、その空き家の利用状況が更新される。
ここで、アプリユーザーが空き家の状態を写真等で送ることで、空き家の混雑具合、破損状況、周辺状況をアプリ運営側が知ることになる。
5.メリット
このアプリを利用することのメリットについて説明していく。考えられるメリットとしては災害時の避難効率が上がることと避難時にすこしでも安心感を与えることである。1つ目の避難効率について、利用者がある程度の個人情報を登録すること、位置情報サービスをオンにすることで、アプリでは各場所におけるおおまかな人口を把握することができ、個々にとって適した空き家にスムーズに誘導することが可能になる。次に災害関連死を減少させることが期待できる。災害関連死とは災害による直接の被害でない原因で、避難途中や避難後に亡くなってしまうことで、1つの例として過去に実際高齢者だけでなく30,40代の人も避難による疲労から心不全や心疾患を引き起こし、死んでしまうケースがあった。そこでこのアプリが個人に適した距離や時間、避難先の情報を提供できることで、少しでも避難にかかる労力が軽減され、災害関連死を減らすことがメリットとして期待できる。次に避難時に安心感を少しでも与えることについては、アプリを通じて利用者同士の情報共有ができることにある。アプリの特徴にあったように利用者が文章や写真で情報を共有することで空き家の状態や利用状況などが把握でき、避難時にはそれを頼りにすることができる。避難先の状況が把握できれば、避難の先にある不安や不信感を多少は払拭することができ、精神面でのサポートにも繋がると考えられる。さらに普段の日常生活や避難時に利用者がアプリを使って主体的に動くことで、このアプリの完成度を持続的に高めていける点も1つのメリットとして考えることができる。
6.課題
次に、アプリ導入をふまえた上で考えられる今後の課題について、どのように収益を上げ、採算を取るかといった問題が考えられる。アプリ、空き家に共通して考えられるのは管理・運営をだれにどのように任せるかといった問題である。修繕費、改修費などのコストをどこから補うかといった課題が考えられる。以上の課題を1つ1つ検討し、対処していくことが空き家を活用するアプリの実現に繋がると考えている。
7.まとめ
ここまで見てきたように、私たちは都市部における帰宅困難者の問題の解決策として空き家を活用した一時滞在施設の確保ができるのではないかと考え、災害時に帰宅困難者と一時滞在施設をつなぐアプリを提案する。これにより、災害時の帰宅困難者による混乱や二次災害を防ぐだけでなく、都市部の空き家問題の解決にも繋がるのではないかと考える。
<参考文献>
・首都直下地震の被害想定と避難者・帰宅困難者対策の概要について https://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/senmon/shutohinan/1/pdf/shiryou_2.pdf
(URL最終閲覧:2022年7月3日)
・東京新聞 「首都直下地震で帰宅困難者453万人、東京駅には43万人…受け入れ先の確保急務」 2022年5月26日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/179512
(URL最終閲覧:2022年7月3日)
・東京都住宅政策本部 東京都空き家情報サイト https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/akiya/gaiyou.html
(URL最終閲覧:2022年7月3日)
ゴミをくっつけて海をきれいに ~プラスチックとグレーチングの磁石化~
法政大学
山田 季帆里 小掠 千優 工藤 麻鈴 小槻 瑶子
【要約】
私たちは、海洋汚染に対する改善策を提案する。近年、ポイ捨てされたプラスチックゴミが町の排水溝から海に流入し、世界中でさまざまな悪影響を及ぼしている。そこで私たちは、海に流れこむ前に、排水溝の蓋でプラスチックゴミを集めて回収したいと考えた。
今回提案する方法は、町中の排水溝の蓋を磁石化し、レジ袋や包装に使われるプラスチックを磁石塗料で加工することで、海に流れるゴミの量を減らすというものだ。まず、排水溝の蓋を製造する際に磁石を含ませる。そして、レジ袋などに磁石塗料を塗布することで、排水溝の蓋にプラスチックごみが集まるようにする。この方法で、海に浮かぶプラスチックごみの量を減らすことが出来ると考える。さらに、ボランティア団体や、その地域住民の清掃活動が容易になり、町の景観も改善される。
【
私たちは海に流れ込むプラスチックごみの量を減らすため、磁石に反応するプラスチック製品の開発を提案する。ポイ捨てなど何らかの理由で、排水溝からレジ袋やペットボトルが海に流れ込むことを阻止しようというのがこの案の主旨だ。
はじめに、プラスチックによる海洋汚染問題を取り上げた背景について説明する。私たちの暮らしには、使い捨てのプラスチックごみで溢れている。レジ袋やペットボトル、お弁当やお菓子の袋など、数えたらきりがない。また、世界は新型コロナウイルスの影響を受け、外食に制限がかかったため、テイクアウトやデリバリーというサービスの利用が急激に増加し、ますますプラスチック容器の使用量は増えている。これらのプラスチック製品は、購入してから短時間で不要になることがほとんどであるため、ポイ捨てされるごみの中でも上位となっている。ポイ捨てされたごみは最終的に海へ流れ込むが、その様子を私たちは見ることが出来ないため、今の海洋の状況について知らない人が多い。また、日本人は環境問題への意識が他国と比較して低い。普通に生活しているだけではこれからも環境意識は上がらないだろう。そのため、まずは多くの人に関係するプラスチックごみ問題を解決することが先決であると考えた。
そこで今回提案するプラスチック容器とグレーチングの磁石化は、街に落ちているプラスチックごみがグレーチングの磁石に反応して集まるため、普段見えていないごみが見えるようになる。自分の住んでいる街にプラスチックごみが溜まっている様子を目の当たりにすることで、自分自身が環境に対して影響を与えていることを認識してもらうきっかけとなり、環境意識の向上も期待できる。また、プラスチックごみが海へ流れ込むのを未然に防ぐことが出来るため、海洋汚染問題の解決に欠かせないものであると考えている。
次に、プラスチックごみがどれだけ海洋汚染に悪影響を及ぼしているのかについて説明する。現在、世界の海に存在するプラスチックごみの量は合計で1億5,000万トンであり、さらに年間800万トンが新たに流れ込んでいる。この800万トンというのは、毎日自家用車1.5万台分のごみが流出している計算となり、このままでは2050年に海洋中のプラスチックごみの量が魚の量を上回るという予測もされている。そもそもなぜ大量のプラスチックごみが海へ流れ込んでしまうのか。一番の原因は排水溝や河川から流れ出ることにある。直接海に捨てられているプラスチックごみよりも、排水溝や河川を通じて内陸から海に流されているプラスチックごみの方が70%から80%と高い割合を占めている。また、プラスチックごみは他の材質と比べて分解されにくい性質を持つため、長い年月をかけて海洋中を漂い続ける。海に流れ込んだプラスチックごみは半永久的になくならずに蓄積する一方である。では、なぜプラスチックごみが海に流れ込むことが問題なのか。プラスチックごみによる海洋汚染は広範囲に悪影響を及ぼすからである。まず、海洋生物への被害である。海洋生物がプラスチックごみを誤飲することで、死に至るケースがある。また、海洋生物だけでなく、人間にも悪影響がある。プラスチックごみを誤飲した海洋生物を食すことで、人間の健康への影響が心配される。さらに、プラスチックごみにより海洋生物が減少することで漁業が成り立たなくなることも考えられる。これら以外にも沢山の海洋汚染による影響が存在し、日々深刻化している。
このようなプラスチックごみによる海洋汚染を少しでも減らしたい。海に流入する前にプラスチックごみを回収することが出来れば良いが、プラスチックごみはそこら中に転がっているため、ごみ拾いでは時間がかかってしまう。そこで私たちは、磁石に反応するプラスチック容器の開発及び、グレーチングの磁石化を提案する。この方法であれば効率的にごみを回収することが出来る。まず磁石にくっつくプラスチック容器を開発する。そして排水溝のふたの部分である「グレーチング」を磁石にすることで、プラスチックごみをグレーチングに集めることが出来る。ポイ捨てをしても近くのグレーチングに引き寄せられ、海に流れることがなくなるということだ。グレーチングに集まったごみは、ごみ収集車やボランティアの人、地域の人が簡単に回収できる。また店頭の看板やディスプレイなど、磁石は町中にあふれているため、人々の生活圏内にもたくさんのごみが集まる。結果として回収も容易になり、一般の人に回収を促すこともできる。自分の職場や居住地にごみが集まれば目に見えて汚れが分かるため、ポイ捨ての抑止力にもなるだろう。レジ袋やプラスチック製品の使用を控えようという意識や、環境に配慮した商品を購入しようという意欲が高まる可能性もある。
では、どのようにして磁石に反応するプラスチック容器を開発するのか。私たちが考えたのは、既に商品として存在している磁石塗料をプラスチック容器に塗布する方法だ。この磁石塗料はDIY市場で人気があり、壁などに塗ると磁石をくっつけられるようになるという特徴がある。この磁石塗料を利用し、プラスチックごみがグレーチングに集まるようにする。例えばレジ袋や発泡スチロールであれば、磁石塗料を均一に染み込ませ、全体が磁石につくようにする。全体に染み込ませるのは、 一部につけると磁石部分以外が分裂してしまい、風や雨で海に流入してしまう可能性があるためだ。ペットボトルであれば、容器の底とキャップの部分に磁石塗料を使用する。キャップに印刷されているメーカーロゴをその塗料で印字すれば、デザイン性も損なわれない。企業側としても導入しやすいだろう。プラスチック容器に固形の磁石を貼付するのではなく、磁石塗料を塗布する理由は主に2つある。1つ目は、先ほども述べたように全体に染み込ませるためだ。プラスチック容器全体が磁石に反応するならば、耐久性の低いレジ袋や発泡スチロールでも分裂し吹き飛ばされてしまうことはない。2つ目は、磁石塗料を塗布する方がより簡素な生産工程になり、コストがかからないと考えたからである。磁石塗料はレジ袋、ペットボトル、発泡スチロールだけでなく様々なプラスチック容器に利用することが出来る。グレーチングにプラスチックごみが集まり、この方法が効率的であることが分かれば、河川にも磁石を設置すべきだと考えている。河川にもたくさんのプラスチックごみが流れているが、水中に沈んでしまったプラスチックごみはボランティアでもあまり回収されていない。ここでも効率的に回収できれば、海に流れるごみの量は圧倒的に減少する。私たちはこのようなプラスチック容器とグレーチングの磁石化が、プラスチックごみによる海洋汚染の大幅な減少につながると考えている。
図2 マグネットペイント
図 3 レジ袋を磁石塗料につける
排水溝から海へ流れ込むプラスチック量の削減を目的として、磁石に反応するプラスチック製品の開発を提案する。海へ流れ込むプラスチック製品は、海洋環境へ悪影響を及ぼす大きな原因となっている。世界で起きている海洋汚染は悪化の一途をたどっており、日本も例外ではない。そこで、以上の問題を緩和するために、磁石に反応するプラスチック製品の開発及び、グレーチングの磁石化を考案した。磁石に反応する塗料「マグネットペイント」を塗布したプラスチックごみは、磁石化した「グレーチング」に反応し、海に流れこむ前にプラスチックごみを回収することができる。景観を害するプラスチックごみは、ボランティアの人や地域の人によって回収される他、自らの生活圏内を汚したくない人々に対するポイ捨ての抑止力になることが期待できる。環境被害の緩和のためには、このような新しい製品開発が効果的だといえるだろう。
<参考文献>
レジ袋有料化で「海洋プラごみ」は解決するのか
https://toyokeizai.net/articles/-/360765
なぜプラスチックゴミは海に流出するのか
https://www.sentakushi.com/contribution/plastic210827.html
レジ袋などのプラスチックごみが原因で起こる海洋汚染について知ろう
https://gooddo.jp/magazine/oceans/marine_pollution/plastic_garbage/plastic_bag/10700/
プラごみ、世界で年800万トン 国境越えて海を汚染
https://www.asahi.com/articles/ASN6P2QT4N6BPLBJ009.html
排水溝の蓋 20220626
https://www.quizbang.net/quiz/decathlon/name/17862/
Amazon MAGNET PAINT (ベース) 0.5L 20220626
以上
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