グラングリーン大阪 GBJ LEED認証プロジェクトインタビュー

プロジェクト概要

プロジェクト名:グラングリーン大阪(Grand Green Osaka)

        うめきた2期地区開発事業
認証システム:LEED ND: Plan v4

認証レベル:ゴールド
認証取得日:2023年2月3日

 

インタビュー
日時:2024年2月5日(月)12:00~

 

参加者:姜 同徹 様

    阪急阪神不動産株式会社 開発事業本部うめきた事業部うめきたグループ

    課長

 

    小松 良朗 様

       株式会社日建設計 都市・社会基盤部門都市デザイングループ

    ランドスケープ設計部長

 

    小山 暢朗

    GBJ コンテンツワーキンググループ

 

    柳瀬 真紀

    GBJ 共同代表理事

 

 

 

小山:今回、LEED v4 NDプラン認証でゴールドを取得された「グラングリーン大阪」は、JR大阪駅北側の広大な敷地の約半分が公園、残り半分が様々な用途の建築物で構成されています。大阪は東京に比較して公園やオープンスペースが少ないと言われてきましたが、敷地の半分を大規模な都市公園とする大胆な計画を実現できた経緯についてお聞かせください。

 

姜:本プロジェクトは大阪最後の一等地の開発とあって、その開発方針にあたっては各方面から様々な議論がありましたが、徐々に「みどり」というテーマが重要視されるようになりました。ここで言う「みどり」は単なる緑化されたオープンな空間というだけでなく、様々な人が集まり多様な活動が繰り広げられる魅力的な空間、という意味が込められた本開発で重視している概念です。以前から、世界の大都市に比較して大阪の都心部にはまとまった緑やオープンスペースが少ないという課題が指摘されており、そうした「みどり」にフォーカスした開発の機運が高まっていったと思います。そうした背景のもと、我々はただ広い緑があるだけでなく、多様な人が訪れたくなる本物の都市公園がある開発をめざしました。オープンスペースを増やせば、短期的な視点では経済合理性は損なわれますが、中長期的な視点に立てば、緑豊かな本物の都市公園がエリアの付加価値の向上に寄与するのではないかと考えました。実際にシカゴのミレニアムパーク等、世界の都市公園も視察したことで、そうした思いは強くなりました。

 

 

小山:敷地は東西に走る道路を挟んで南街区と北街区に分かれています。道路を挟んで二つに分かれた南公園と北公園をブリッジで接続し、豊かな緑や池・滝がある自然の森のようなランドスケープから、イベント開催ができる大屋根施設を備えた天然芝のオープンスペースまで、様々な種類の緑の空間があるようです。また、周辺地域との融合も開発のコンセプトに入っているのでしょうか。

 

小松:プロジェクト街区全体のランドスケープコンセプトは、水の都大阪の土地の記憶でもある「潤った緑の大地」です。約4.5haの公園は周辺街区も含めた中心的存在であり、約3mの高低差による彫刻的なランドフォーム(地形)をつくることにより、3つのコアが創出されています。まず1つ目のコアである南公園は大阪駅前側に開かれ、芝生広場、噴水、大屋根付のイベント広場など都市的な広場の雰囲気になっています。次に2つ目のコアである北公園は、近くの梅田スカイビル足元の新里山と呼ばれるエリアや淀川に近く、滝や生物が生息する池など自然豊かな公園のイメージになっています。ここでは、56種類の誘致目標種(鳥と昆虫)を選び、それらが来てくれるように植栽計画を行い、この場所ならではの生物多様性を追求しました。最後に3つ目のコアとして、南北街区を横切る道路の両サイドに位置する歩道と公園内の長いベンチ空間を設けたステッププラザがデザインされています。また、ひらめきの道と呼ばれる動線はランドフォームの丘と逆位相のS字カーブでつながっていて、JRの駅からもブリッジで接続されているなど、敷地全体を貫く歩行者用の回廊として街と融合させるスカイパスとなっています。また、街区内建物の正方形のフットプリントが意図的に角度を振って配置されることで緑豊かな「間」がうまれ、周辺のまちや建物間とのつながりが強化されており、グランフロントやスカイビルなど周辺も含め、地域が一体となって活きる計画となっています。

 

 

小山:公園全体の植栽計画や方針について、アピールしたいところを教えてください。

 

小松:土地の歴史を探り、潜在自然植生であるエノキ、ムクノキなど河畔林や水生植物帯を低地の森として低いエリアにもちこみつつ、日本らしさを大事にするため丘の部分は関西近郊の里山林の樹種を中心とした四季感あふれる植栽計画としました。近隣の神社などの植生をリサーチし、丘にはアカマツ、低地はクロマツなどを採用しています。マツとサクラという組み合わせは最近の公園ではあまり見かけないですが、新しい大阪のサクラの名所になると考えています。

 

小山:公園の中だけでなく、緑や建物を楽しみながら敷地の端から端まで歩くことができるように計画されています。敷地全体が歩車分離・ウォーカブルであるのは、ここを訪れる人やここで働く人が安全で快適な環境で歩くことができ、心身の健康にとてもよさそうですね。

 

姜:公園を中心に、ビルまわりのランドスケープと敷地周辺の道路もゆとりをもった設計としており、居心地の良さをエリアの価値として考慮しています。また、公園とビルのある民間敷地は敷地境界で区切らず一体的に計画しており、公園を歩いているといつのまにかビルの足元にたどり着くというデザインになっています。

 

小山:境界をきちんと区分するという考え方が、公園や公共スペースの自由な使い方を阻んでいると言われることありますね。

 

姜:やはり管理の視点でいうと、責任範囲を明確にしたいということで、きちんと区分することが一般的かと思います。ただ、そこで壁をつくってしまうと、空間の広がりが損なわれるデメリットがあります。本プロジェクトでは、我々が指定管理者として公園も管理していく立場にあるため、境界で区切らないという意思決定がしやすかったと言えると思います。

 

 

小松:街区を一体的にデザインし、エリアとして利用していくというのが今回のプロジェクトの特徴ですし、魅力でもあります。ただ、一体的に計画していくは大きな苦労がありました。プロジェクト敷地内に公園や道路などの公有地と民間敷地が隣接し、また民間でも異なる所有者が混在しているので、実は「見えない境界」が多数あるのです。その中で、境界で分けずに統一したデザインをすることはとても大変でしたが、「境界を越えたデザイン」をキーワードに計画できたのは大きな成果だと思っています。住宅棟の足元にも公園からのパスが伸びていますが、あえて入居者以外も通行を可能とされています。

 

小山:多くの植栽や池・滝といった水景の他、様々なグリーンインフラ技術の導入や雨水再利用により、雨水管理の項目で4点満点中4点を獲得されたと伺いました。最近、都市でもゲリラ豪雨が多くなり大きな課題になっていますが、公園として工夫したことを教えてください。

 

小松:街区全体で雨水流出を抑制しており、まず各建物に雨水流出抑制施設が設置されています。また公園内でも地下浸透のみならず、浸透トレンチや砕石層を通じて最終的に雨水流出抑制槽で管理しています。南北公園にひとつずつ設置した雨水流出抑制槽では年間降雨量の約半分をコントロールし、それらの一部は雨水再利用槽を通じて公園内の潅水等にも利用します。今後それらを数値化しダイヤグラムを作成して見える化していく予定です。

 

小山:雨水は水景設備にも利用しているのですか。

 

小松:水景設備に対しては多少のオンサイト利用でごくわずかです。それよりも都市公園として浸透した水が樹木に吸い上げられて蒸散することでクールスポットを生み出し、その水は大気に戻り、また雨が降るという大きな水循環のサイクルが実現されていることに着目しています。都心の人工地盤上で緑化した素晴らしい事例も多数ありますが、本件は大地に根差した都市公園を有したプロジェクトであることから、リアルで水循環を実現できる素晴らしい事例にすべきだと考えました。このプロジェクトを通じて都市公園の機能や環境面での重要性をいかに発信していくかも大事なことだと思っています。

 

小山:LEED v4 NDプラン認証を取得されたきっかけは何ですか。また取得してよかったこと、逆に大変だったことをお聞かせください。

 

姜:本プロジェクトでは大規模な都市公園の整備だけでなく、目に見えないサステナビリティへの取り組みにもたくさんチャレンジしているのですが、それらを効果的に広く発信していきたいという思いがあり、グローバルスタンダードとして認知度の高いLEED認証を選択することになりました。国内外の認知度の高さといったメリットだけでなく、審査基準が定量的でわかりやすい点が、プロジェクトのゴール設定としても有効だったと思います。難しかった点は、スペックとしてあらかじめ反映しなければならないポイントも多く、計画の初期段階からLEED認証取得を視野にいれて長期的に取り組む必要があったことですね。今回のプロジェクトでは専門のコンサルタントに計画の初期段階から参加いただき、ずっと伴走いただいたことが認証取得の一因だと考えています。本プロジェクトは2024年に先行まちびらきを迎えますが、今後の運用管理段階でもサステナビリティへの取り組みを継続し、多くの方々が訪れる大阪のランドマークとなることを目指したいと思います。

 

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