プロジェクト概要
プロジェクト名:日本設計本社
認証システム:LEED v4 ID+C 認証レベル:ゴールド 認証取得日:2023年10月30日
取材日:2024年7月10日(水)
場 所:株式会社日本設計 本社
GBJ:LEED認証を取得しようと思われたきっかけは何でしょうか。
日本設計:日本設計では日頃からお客様にもLEED認証をご提案しています。そのような活動の中で、自社で設計したテナントビルに、自らテナントで入居するという貴重な機会にあたりLEED認証の取得に取り組むことは当然の流れだったと思います。既存のビルに入居する際にどのような試みができるのかということを探ることが今回のコンセプトの一つでした。また、LEED認証を普及させていく際のポイントや課題を整理することも目的もひとつでした。LEED認証を取得するために新しい試みもいくつか採用したので、運用段階で検証し今後の設計に役立てたいと考えています。
GBJ:34階と35階が大きな吹き抜けとなっていますが、コミュニケーションの活性化や業務の効率化など、メリットについて教えてください。
日本設計:移転前のビルでは3フロアを使っていたのですが、フロア間での行き来はあまりありませんでした。こちらのビルでは2フロアを使用していますが、ベースビルが床を抜いて階段を設置することができる仕様としていたため、その利点を活かしてフロアをつなげる階段を2か所設け、コミュニケーションを取りやすくしています。
受付前にある大階段は、社内外のイベントや研修を開催できる「みんなの広場」につながっており、上階からもイベントの様子が見えるようになっています。もう一つの階段は、「think ++Library」という図書館機能や展示スペースのある空間に設置されており、ここの書籍や展示を見に来た人達とコミュニケーションが取れるように工夫しています。このことで、社内移動ではエレベーターを使わずに移動でき、健康増進にも役立っています。
GBJ:「think ++ nexus」とはどのような概念やコンセプトなのでしょうか。
日本設計:企業理念である「think++」は、まだ形にないものを思い描き考える「think」に、未来価値の「+」、クライアントや社会と共創する「+」を加えたものです。明日の私たちの未来価値を考え、共創する、think++nexusがオフィスコンセプトです。
コロナ禍もあり、移転を機に働き方も改革し、「共有フレックス制」を導入しました。 働く時間、働く場所を選択できるようになり、オフィスで働くことの意味をどう捉えていくかは今回のオフィス計画の課題でした。「出会い、学び、共創」を重視したオフィスとして、設計が進められました。
センターコアで全方位外部に向かって開けた二層連続空間であるため、そのことを有効に活用した設計としています。外壁面から共用廊下まではかなり奥行きがあるため、「ミチ」と呼ぶ回遊できる通路をオフィス中央に設け、出会いの場となる計画です。この「ミチ」を挟んで外側を開放的でコミュニケーションが取りやすいエリア、内側は集中して執務や打合せが行える空間を配置しています。
GBJ:「ミチ」を中心に多様な特徴を持つ空間が配置されており、とても活気のある魅力的な空間だと感じました。
日本設計:「nexus」という言葉ですが、ロゴマークの形が表現しているように、
「Magnet」・・・「ひと」と「ひと」の絆、自然・歴史・都市・環境のつながり
「next of us」・・・創造性・次世代志向・ストレッチ性
「Infinity」・・・無限の拡張性・回遊性のあるオフィス
を意味しています。
GBJ:公開されているスコアカードを拝見すると、エネルギーと大気のカテゴリーで、「コミッショニング」や「エネルギー効率の最適化」の項目が高いポイントとなっていますが、取組みとして特徴的なことがあれば教えてください。
日本設計:コミッショニングではLEEDで求められている性能仕様のチェックを確実に行いました。建物の新築時の設計も当社が担当していたので確認は容易だったと思います。新オフィスでは、従来の賃貸オフィスを超え、ビルオーナーと連携して省エネに取り組むことに挑戦しています。フリーアドレスで居場所を選べることから、空調条件が一律ではない計画としており、省エネで満足度の高い空調計画を目指しています。このことも「エネルギー効率の最適化」に寄与していると思います。
GBJ:ビーコンとスマートフォンを使って従業員の動きを把握し分析されているとのことですが、その分析の結果から明らかになった、これからのオフィス計画に参考となる知見などがありましたら教えてください。
日本設計:例えば、社員のスマートフォンを使って何処に誰が居るということを把握することができますが、そのデータは時系列で記録されています。また、その時の環境状態もセンサーで取得し、それらの情報を紐づけするシステムを開発しました。また、このスマートフォンを使って一週間、今現在の行動や感想のアンケート調査を行いました。
これらの情報から、当オフィスのコンセプトである回遊性を活かしたインフォーマルなコミュニケーションがどのように実現されたかを分析することができました。例えば、業務の満足度の高さは、回遊性特有の偶発的な遭遇と相関しています。また、個人や役職、セクションの特性による、暗黙知を形式知に変換して共有するのに適した勤務条件の違いも見えてきました。これらの成果から、お客様の業務内容をお聞きすることで、それに合ったオフィスを計画することができるようになりました。
今後は、フリーアドレスの個人に最適なワークプレイスを知らせるリコメンド機能や、AIを活用したエネルギーを最適化しながらの多様な環境空間創出の概念 を発展させ、オフィスの成長を継続させていければと思っています。
GBJ:リコメンド機能は私も体験してみたいです。実践して得られた膨大なデータを蓄積して分析する。そして、技術、計画のさらなる高度化につなげていく継続的な取り組みがとても大切だということが良く分かりました。
GBJ:最後に設計者としてグリーンビルディングに取り組むことの意義や、これからの建築、都市のあるべき姿についてのお考えがあれば教えてください。
日本設計:当社 は1980年代より環境の課題を社会的課題として捉え、設計に取り組んできました。まちづくり、建築設計の根底には必ずその思想が取り入れられています。当社は、虎ノ門一帯の都市計画、虎ノ門ヒルズ森タワーの設計者でもあります。ここでは、人や緑の繋がりを作り、パブリックスペースを中心に人が集まり交わることで、新たな価値を作り出すことを目指しています。
まちや建築のコンセプトをテナントデザインにも継承するとともに、テナントでの試みが、建物やまちへ還元できればと思います。また東京都心には、700万坪を超えるオフィスストックが存在しています。このストック活用の魅力的なモデルケースとして実践していくことこそが社会課題に対しての貢献だとも考えています。今後も成長、進化するオフィスとして、私たち技術者集団だからこそできる取り組みを実践、発信していきたいと考えています。
GBJ:本日は大変貴重なお話をお聞きすることができました。有難うございました。
[参考リンク]
日本設計本社 新オフィス紹介1
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