Port Plus® GBJ LEED認証プロジェクトインタビュー

プロジェクト名:Port Plus大林組横浜研修所
建設地:横浜
認証システム: LEED v4 BD+C(Hospitality)
認証取得:2022年8月
認証レベル:ゴールド

 

インタビューを受けた人:

大林組 太田真理 様
インタビューした人:
GBJ運営委員 斎藤千秋
企画編集 GBJ運営委員 今井康博、水谷佳奈

 

GBJインタビューシリーズ、今回は大注目の株式会社大林組 次世代型研修施設「Port Plus」。Port Plusは、全ての地上構造部材(柱・梁・床・壁)を木材とした高層純木造耐火建築物です。GBJならではのLEEDに関連する切り口で、多くのお話を伺ってきました。

 

当日のインタビュー風景

 

 

「Port Plus」外観(撮影:株式会社エスエス 走出直道)

 

―この建物は研修所です。研修所というのは、何をする場所でしょうか?Port Plus®は日本初の高層純木造耐火建築物として注目を集めています。貴社が木造建築を推進する理由を教えてください。

 

太田 真理(以下、太田):当社は、「Obayashi Sustainability Vision2050」という2050年のあるべき姿に向かって、バックキャスティングの視点でアクションプランを掲げています。そのアクションプランのひとつが、「大型建築物の木造・木質化」の推進による、地球・社会・人のサステナビリティの実現です。
Port Plusは、これからの木造の可能性を広げるために、現在の技術、法規制の中で、木造を最大限に利用する純木造の高層化にチャレンジしたプロジェクトです。建設業界にとどまらず、それを取り巻くすべての方にとって、現代の木造建築の可能性を提示することを、企画の重要な柱にしました。
また、次世代型研修施設と位置付け、自宅でも職場でもない場所で、普段の業務から離れ,この研修所でしか得られない体験やプラスを得る場を目指し、プロモーション、イノベーション、ウェルネス、サステナビリティの4つの軸をテーマとしています。この研修所は2018年から約2年かけて設計され、2020年3月から2022年3月までの2年間が施工期間です。2022年4月から研修を始め、竣工後一年半が経過し、様々な設備的な実測や試験などのプログラムに取り組み、純木造や設備などいろいろ経過観察をしてきました。集まることによる刺激と相乗効果、それをより高める質の高い空間体験が得られており、この一年間、いい研修成果が得られていると感じます。

 

撮影:株式会社エスエス 走出直道

 

―(LEED Project Directoryで公開されているScorecardによると)LEEDの材料カテゴリではLCAで高得点(3ポイント)を獲得しています。最近では、運用段階のエネルギーだけでなく、Embodied carbon、Whole carbonという建築素材が作られる際のCO2を下げる対策の重要性に関心が集まっており、LEEDの評価はこの考え方を取り入れています。結果として可視化できたことはプラスだったのでは?反響はありますか?

 

太田:木造が環境負荷の低い素材であるとはわかっていました。LEEDにおけるLCA評価対象の構造・外皮材料を主としたLCA(使用建材の「アップフロントカーボン」。運用段階の「オペレーショナル・カーボン」は含めず。) について、一般的な鉄骨だった場合をベースラインとして評価したものよりも環境負荷が低いことが想定通りに示されました。ちょうど、エンボディード・カーボンへの関心が高まり始めた時期と重なり、CO2算出事例として発信するときにも役立っています。

 

―木造建築というと断熱性能が高そうですが、気になる水密、気密性についてもLEEDの評価項目をうまく利用して性能の高さが証明されたようですね?

 

太田:木材による外皮の断熱性の高さは設計段階から明らかでした。LEEDv4のエナジーモデリングのベースラインよりも高い断熱性能値です。気密性については、日本では珍しい建物一棟丸ごとのブロアドアテスト(Blower Door Test)で実施して漏気が少ないことを確認し、ASHRAE90.1 2016の基準でもある、漏気量7.2m3/h/m2@75Pa以下を満たす性能が確認できました。すなわち、設計上の断熱性能のみならず実際にエネルギー効率の高い建物であることが、気密性の高さを検証するフィールド試験によっても確認できました。

 

木材を利用した研修スペース 撮影:株式会社エスエス 走出直道

 

―実際に建物の中にいると、木造の質感の柔らかさと昼光を心地よく感じます。昼光はLEEDの得点に寄与しましたか?

 

太田:木造の梁を庇のように使うことで、直射日光を和らげながらも、明るい光として部屋の中に取り込める設計としました。LEEDのIEQカテゴリの昼光利用で、実測により300ルクス以上の定常的使用空間の面積割合を測定する要件を用いて、1ポイントを獲得しています。実際の運用面では、壁面の操作パネルから手動でブラインドの開閉や角度調整の操作もでき、また、調光は季節ごとのモードを設定し、ブラインドを時間ごとに制御して自動操作しています。

 

宿泊室のシャワーブース

 

―木造から離れますが、宿泊施設も伴っていることから毎日のシャワー利用があり、LEEDの中でも厳しいと言われるシャワーやトイレの節水対応は大変ではなかったですか?

 

太田:節水器具は大変気を遣って、メーカーとも協議しながらアメリカのWater sense基準同等の流量にしました。雨水や中水利用等の再生水なしで、なんとかベースラインより30%節水の2ポイント分を取りました。シャワーだけでなく、多くがAll gender(全個室)トイレのため、男性用小便器で節水率を稼ぐこともできなかったのです。利用者からは不満もなく、水使用量は同等施設に比べて、思った以上に少ない結果を出しています。日本でも水の不確実性が高まっていて、重要な課題であり、この施設では、継続的に水使用量のモニタリングも続けています。

 

共有スペース 撮影:株式会社エスエス 走出直道

 

―Port Plus でLEED 認証を取得しようと決めたきっかけは何ですか?

 

太田:もともとLEEDの要件に合わせて設計したのではなく、Port Plusの施設コンセプトで実現したものが第三者性のある基準でどのような位置づけになるかを検証したかったのです。Port Plusとしての意匠、設備を優先したものが、世界標準のLEEDでもゴールドを取得したことを示せたことは、率直に喜ばしいです。(プラチナ・ランクを狙うなら、地下に雨水再利用のための貯留タンクを設置したり、内装材にEPD取得のメーカー品を多用したり、諸グリーン証書などを購入する等の方策もあり得ましたが、施設コンセプトやデザインの合理性を重視し最高ランクには拘りませんでした。)
木造だからこそ加点できたというLEEDクレジットは少ないですが、建物としての総合的な高評価は木造建築を推進する上でも、関係者の自信になったといえます。
またPort Plusはウェルビーイングも重要なテーマであり、WELL認証も同様に取得しましたが、LEED認証を取得したことによるイノベーションポイントが得られ最高評価の「プラチナ」を得ています。

 

―大林組の木造建築が、世界に広がることが楽しみです。木造建築は世界的にも注目が高まっています。また、LEED、WELLを両方取得する建物も増えてきています。今後の木造建築、LEED、WELLの広がりへの期待や積極的な戦略などがあれば、うかがえる範囲で教えてください。

 

太田:北米やヨーロッパ、豪州など世界中で急速に木質・木造建物の意欲的な取り組みが進んでいます。そのような世界中のイノベーティブな事例に興味を惹かれます。
木造建築は、カーボンニュートラルや脱炭素社会の実現に向けた取り組みに繋がります。LEEDは、省エネ等により排出量の削減に貢献でき、WELL認証はウェルビーイング(快適に過ごすことができ、人の心にも身体にも良い)を付加しやすくなり、親和性があります。
木造建築の目指す取り組みに近いLEED認証やWELL認証を取得する木造建築も今後増えていくと思われます。今回、この純木造建築のPort Plusを担当してそう思いました。
LEEDやWELLについては、建物の性能水準を誰でも容易に把握できる世界共通のコミュニケーションツールとなっており、LEED、WELLの取得を世界に発信していくことが益々効果的になってきていると思います。一方、ローカル基準の同等性認定も若干はあるものの、基準の多くが北米のスタンダードによるものであり、米国に建つ場合に比べて日本に建つプロジェクトではクレジットポイントを獲得するのが難しいように思われます。日本の国内基準の同等性がもっと認められていくことが、日本でのLEED等の普及の課題といえます。

 

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LEED,WELL,SITES 認証プロジェクト

Port Plus大林組横浜研修所

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