GBJシンポジウム2019 セミナー「グリーンビルディング入門」の内容をご紹介します。
世界各国に、さまざまな認証制度や評価基準というものがあります。
アルファベット方が多く、略号が多くてわかりづらいですが、まず評価軸が何かを見極める必要があります。
総合評価、エネルギー評価、人を中心とした評価で3つの段に分けることができます。
このうち、LEED、WELLは米国生まれの総合、人中心の認証制度です。
ここでは「評価指標」として、同じ表におさめています。
SDGsとかESGという言葉もよく聞きます。
これもアルファベットの仲間なので認証制度と勘違いされるかも知れませんが、こちらはグリーンビルや都市環境にとどまらないもっと大きな取組みです。
ESG:トリプルボトムラインですが、投資の指標として使われることが多くなりました。
SDGs:国連が定めた、すべての国が2030年を目標に一緒に目指すGoal
認証ではないけど比較的新しくよく出てくる言葉として、 SDGsは目指すゴール、GRESBはESG投資のための通信簿、ArcはLEEDやBREEAMで使われるパフォーマンス評価のプラットフォームです。
グリーンビルディングジャパンでは米国生まれのLEEDとWELLを中心に、グリーンビルの推進を図っています。
次にそもそもグリーンビルとは何かについて考えてみます。
グリーンビルと言ったら最初に思い浮かぶのは、アクロス福岡のような木々に囲まれた文字通りグリーンの多いビルです。
1995年 アクロス福岡 エミリオアンバーツ+日本設計+竹中工務店
長い歳月を経て成長したステップガーデンの緑は、現在も無潅水、無農薬、無肥料に近い管理を続けています。
古典派グリーンビルと言えます。
木々が植わっているだけでなく、内部にも自然光がふりそそぐなど、グリーンビルの先駆と言えますが、1995年に竣工した当時はLEEDやCASBEEは誕生していませんでした。
次に、よく勘違いされることがあるのですが、グリーンビルを取るためには認証を取らなければいけない、あるいは認証をとっていないとグリーンビルを名乗ってはいけないという誤解がありますが、これは違います。
2016年に完成しましたコープ共済プラザは、ビルオーナーが非常に深い見識をもって、日建設計の専門家チームとともに取り組んだ本格派のグリーンビルですが、CASBEEもLEEDもあえて取得していません。
ではなぜ認証を取るのか。
このように、見た目が緑に囲まれていなくても認証制度を活用することで手がかりが出来ます。
どんな点を達成すればグリーンビルかという目安ができる、それを設計に組み込んでいく ことができますし、認証があると、外観に木々が植わっていなくても、「どの点がグリーンビルか」をマーケットへアピールすることができます。
こちらはテナントビルとしてLEED認証を取得。ビルオーナーがテナントにエコな取り組みをしやすいように建物を作るという発想は、古典派ビルや自社ビルにはなかったと言えると思います。
この仕組みによってビルオーナーさんもテナント獲得のために、グリーンビルの取り組みに積極的になってきました また認証制度の中でもグリーンビルの定義が年々変化しています。
WELLの認証建物は、広義のグリーンビルであるという考えもありますが、まだこう言い切るには定着していません。
認証制度がもたらした変化としてこんな表を作ってみました。
横軸が棟数・延床面積です これによってマーケットにグリーンビルが増えて、グリーンビルに入居したいという方にとっても選択肢が増えます。縦軸は関係者の数です。
マニアックな、どちらかというと専門家だけのものだったグリーンビルというものが、ユーザー、貸しビルオーナー、そして投資家にも、関係者が爆発的に増えたというところでお金の流れもどんどん増えていったということがあります。
スタンダードを作ったことで一定の基準を満たせばグリーンビルを名乗れるようになって裾野がひろがりました。
そしていっぽうで、基準があることで「自称グリーンビル」はなかなか難しくなり、マーケットが整備されてきました。
昔からグリーンビルがあったり、見た目だけではわからないグリーンビルがあり、認証は見た目にわからないグリーンビルを見えるようにする効果があることを紹介しました。
ところで、みなさんが一番気になるかもしれない。日本で、みんなやってるの?ということに関してはどうでしょうか?
この2枚のグラフは日本におけるLEEDの増加を示しています。
左はLEED登録件数と認証件数、右は認証件数と延床面積です。年ごとの件数と累積を示しています。
日本では2017年に認証件数100件を突破し、現在USGBCウェブサイトによると、136件になっています。
LEEDは認証を目指す前にまず登録をするのですが、これを見ると登録されているプロジェクトのうち、すでに認証に至っているのは約半分くらいですね。
2016年に登録件数が飛び出ています。これはLEED特有の面白い現象です。
LEEDは、より高いゴールを設定してバージョンアップを繰り返しています。現在は “v4″というバージョンですが、この年は、一つ前のバージョン”2019″で登録をできる、最後の締め切りの年でした。 民間事業者ですから、できるだけ取りやすいバージョンでとりたいから、とりあえず可能性があるなら登録しておこうという心理が数字に表れています。
右のグラフは認証件数と延床面積を示しています。
認証プロジェクトの平均延床面積は14,000㎡程度です。
2015年に認証延床面積が大きいのは大規模なショッピングモールや、大学などがあったためです。
いまLEEDの認証の延床面積は、累積で、200万㎡を超えています。
200万㎡が大きいか?と考えてみますと、あるディベロッパの資料によると、東京23区だけでも、大規模オフィスは毎年100万㎡くらいあるが(資料)、LEED認証ビルの延床合計で200万㎡くらいなので、全部でようやく東京の新規供給2年分というくらいです。
*USGBCのデータベースには面積にsfで登録された値が混ざっているため、正確な面積は表示より少ない可能性があります。
みんなやっているとはいえない面積ですよね。
ただし、レアか?というといわゆる”初めて”シリーズはほとんど終わっているのです。
初めてのプラチナ認証、初めてのLEED、というのは終わっています。
“初めて”でアピールしようとすると、すでに取られている場合が多いですし、準備をしている間に”初めて”がでてきてしまう恐れもあるので、”初めて”を狙う場合は気を付けてください。
むしろ、実質的なメリットを享受するために取得する方が主流になっていくと思われます。
世界ではどうでしょうか?
もはや、右肩上がりのグラフは見慣れていますね。
結果として、世界のデファクトスタンダードとなっているLEEDは76,000件以上、LEEDより歴史のあるイギリスで始まったBREEAMは57万件程度です。
それに対して、日本は、世界のCO2排出量で4%とかを占めていて、経済規模も、建築物も多い国なのですが、認証件数はそのような数値にはまったく届かないですし、少ないことがわかります。
初めてシリーズが終わったにもかかわらず認証件数が増え続けていることからも、日本に合わないのでは?という時期はもう過ぎていることがわかります。
LEEDが、International Roundtableを作って世界で使いやすいように進化し続けていまして、 日本ではGBJ(グリーンビルディングジャパン)がその正式メンバーです。
グリーンビルディングジャパンが日本で使いやすいように整理してきた内容を、今日は3つに絞ってご紹介します。
- まずは出されている資料や言葉の翻訳です。次のページで補足します。
- LEEDもWELLもアメリカと日本の基準の違いにより、どうしても要件が満たせない場合があります。 ACPオルタナティブコンプライアンスパスという、代替案を認めてもらう交渉です。LEEDv4では、日本固有の状況が、どうしてもLEEDの必須を満たせない場合がありました。屋内に喫煙室を作ってはいけない、というものです。 数年をかけて特例を作りましたので、日本のプロジェクトがv4で認証を取れるための、大きな助けになっています。同じようなことはWELLでもたくさんあります。
- LEED認証の際に使いやすいマテリアルの整理です。
GBJのメンバーが必死に翻訳してきた、日本語のリソースは、意外とたくさんあります。
載っている場所が、GBJのサイト(会員向け)と、USGBCのサイトと2か所ありますので、自由に入手してください。
(参考:LEED v4 各ツール 評価項目/ポイント一覧リスト・LEED クレジット概要リスト・
LEEDとWELLは、どこが違うのか。
違うところと、同じところがあります。
LEEDは 建物から地球環境(外側)と、人(内側)
WELLは 作られた建造環境にいる人(内側)に着目しています。
両者は重なる部分もありますが、LEEDは建物、特にエネルギーへの着目に配分が大きいのに対して、WELLは人間中心ですので空気質に対する加点要素が大きくなっています。
例えば「水」という項目では、LEEDは節水や使用量を基準にするのに対して、WELLは水質を基準としています。
建物の中に入って、空調システムをとりあげます。
LEEDは建物が供給するエネルギーの効率に着目します。
人に着目しているWELLでは、どれだけ快適になっているか、システムが人に与える影響、調湿や空気質に着目しています。
徹底的にユーザーサイドから建物(=空間)を見るため、人の座るイスの人間工学的な効果も対象になります。
着目するポイントが微妙にずれているので、LEEDとWELLを両方取得する、ということはあり得ます。
LEED、WELLをみてきたので、その他の認証については?
LEEDとWELL以外に、どんな認証制度はあるのでしょうか?
比較的新しいという認証では、もう一つSITESというものがあります。
昨年度Harumi Flagでも話題になったので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
サステイナブルなランドスケープに対する認証制度です。
特徴としては、ビルがあってもなくてもよく、公園だけ、街路だけとかでもよいです。
ここに挙げたような、10のセクションで評価されます。
ビルがあったとしても、ビルの節水器具とか、省エネ性は必須にありません。
設計前、デザイン、が評価セクションになっていることからもわかりますが、現在、SITESは新規開発、大規模改修のみでしか使えません。
最後に、本日のシンポジウムを終わったときに、何か行動しようと思ったら、何がオススメでしょうか?
これまで、本日のセミナー、シンポジウムの前提となる言葉の意味の説明をしました。
まずは今日来てくださっている方々は、すでにLEED,WELL、さらにその先にESGとSDGsに対する行動、というテーマに興味を持って来て下さっているわけなので、この場所で同じ時間、話題を共有することで、自然に沸き起こってきた気持ちに従えばいいと思います。
行動のおすすめとしては、
最初にSDGsを使ってみる、のがよいと思うんです。なぜなら、地球、自然、テクノロジー、社会生活、人間など網羅的に言及していて、関わりを見つけやすいからです。
会社に所属している人ならば、まず、人生の大半を過ごしている自社を知りましょう。
自分の会社って、SDGsにつながることを何かやっているの?
調査会社や株主、投資家、リクルートにかかわる、経営企画、人事、財務、環境など
いわゆる本社機能を担っている人たちがわが社はSDGsのゴールとベクトルを合わせています!ということを言います。ですので、彼らが作成する資料に記述されることが多くなっています。
なかなか普段、自社のこういった資料は読むことがないので、会社が外向きに何を発信しているか、客観的に知ることができます。
次に職場環境をみてみる。会社が自分に提供しているものはLEED的に、WELL的にどうかな?
次は、仕事をしている人全員に当てはまります。自分の仕事が、SDGsにどうつながっているか考えてみる。
システムエンジニアで、AI社会になってシステムエンジニアの方々は忙しいと思いますが、そのソフトウエアを使った人が何をするのかな?
リーシングをしている人なら、入居したテナントが何をする人たちなのか、どういう人が働くのか?
に思いをはせたりというところまで考えると、結構つながりが見えてきます。
GBJシンポジウム2019
グリーンビルディングセミナー「グリーンビルディング入門」
講師
大村 紋子 GBJ理事(当時)、レンドリース
水谷 佳奈 株式会社ヴォンエルフ
GBJシンポジウム2019 セミナー「グリーンビルディング入門」
参考